2009年11月 5日 (木)

初恋ソムリエ/初野晴

412fpcphl_ss500_ やはり初野晴はすばらしい!

この作品の前作にあたる「退出ゲーム」について書いた時、初野晴という作家は要注目であると言いましたが、本作もとても良い。

ミステリ的には弱い、とする見方があるのは判るのですが、これを読んで僕が思ったのは、「ミステリ」と「青春ミステリ」は別モノだな、ということ。謎そのものの魅力で読者を惹き付けるのではなく、魅力的なキャラクターと軽妙な展開で引き込み、真相を鮮やかに、そして時には胸を打つ癒しを込めて開示することにより、感嘆の溜息をつかせてくれる、そんな作品です。

個人的に一番すきなのは「周波数は77.4MHz」

構成の巧みさと結末の癒しに舌を巻いたのは「アズモデウスの視線」

2009年9月 1日 (火)

追想五断章/米澤穂信

51wz5uncqjl_ss500_ 米澤穂信の新境地。

全体を包む空気は紺屋シリーズとボトルネックを足して2で割った感じ。

本編のメインの謎である、5つのリドルストーリーとその結末を繋ぎ合わせる作業に関しては、まあありきたりといえばありきたりかもしれなく、そこまでの驚きは無かったが、そこに用意された結末というのが、なんとも米澤らしい非情さを孕んでいて、痛みに目を伏せてしまいながらも最後まで読まされてしまう。

登場人物それぞれが持つ、焦燥感、空虚感、諦念などの描き方はもう米澤イズムとでも呼びたいくらいの堂に入りっぷりで、なんか共感に胸を痛めまくってしまう、この鈍く痛む感じがスキでもうずっとこの人のファンなのかなあ、と思ったりもする。

夏の締めくくりにお薦めの一冊。

2009年5月29日 (金)

退出ゲーム/初野 晴

41fejy2b7mel_ss500_ 鮮やかで爽やか、それでいて少し毒も含んだ青春ミステリ短編連作。

とか言うと、僕のような者は1も2もなく飛びつくわけです。

表題作「退出ゲーム」が傑作すぎる。

「退出ゲーム」というのは作中で行われる即興劇であり、そのルールはその劇の中で上手いことある人物を舞台から退出させると勝ち、というもの。

このゲームの使い方が非常に上手いのです。

まずこの良く判らないルールを読者の前に出し、実践しつつ説明、そしてその難しさを理解させる。ここまでは、読者と主人公が辿る道筋は全く同じなわけです。

そして万事休す、というところで主人公サイドの探偵が鮮やかに逆転し、退出を成功させる。ところまでは当たり前というか、読者も予想するわけですが、探偵はその退出させる手法をもって、退出させる少年の持つ傷をも癒してしまうのです。

これにはびっくりしました。

この一編だけで、この本に1500円払う価値は充分ありますが、他の短編も面白いんでとてもお薦め。

この作家、要注目です。

2008年1月16日 (水)

ルピナス探偵団の憂愁/津原泰水

51bjhp8lxul_ss500_ 前作「ルピナス探偵団の当惑」はこれのための布石だったのかと思うくらい素晴らしい。

主人公たち学園卒業後の姿が描かれた今作は、仲間の一人が亡くなる前に残した謎を解く一作目から、学園の卒業時まで時系列を遡るようにして構成されていて、最初は首を傾げたのですが、最後まで読むとその読後感の素晴らしさにとても爽やかな気分になります。そして本書の最初に戻って少し憂鬱な気分になってしまうのですが…。

キャラの立ち位置が前作と少し変わっているのも見所で、探偵と探偵にインスピレーションを与える役を交互にこなしていた主人公彩子と祀島くんは、その役目を固定し、今作では完全に祀島くんが探偵役となっています。彩子はなんだか狂言回しのような役回りです。

まあミステリ的な役回りはそうなっているのですが、やっぱり今作は「ルピナス探偵団」こと4人の友情ものとして読んだほうが面白いと思います。一作目でいきなり死んでしまうのが、前作でいまいちキャラがぱっとしてなかった摩耶なのですが、今作はこの子が大車輪の活躍を見せます。特に3作目のラスト、摩耶が犯人に詰問するシーンの台詞回しは鳥肌ものです。ココの部分に本書の友情ものとしての意義が集約されてくるのではないかとも思います、4作目のラスト、つまり本書のラストもかなり捨てがたいですが…。

とまあ、基本的にはベタ褒めなんですけど、1作目以外は事件(謎)が添え物っぽいという印象もありましてそこが残念といえば残念かなあ。

一作くらい長編で読んでみたいシリーズではあるのですが、多分もう出ないよなあ。

2007年11月 3日 (土)

理由あって冬に出る/似鳥 鶏

51g5awb7cfl_ss500_ 表紙はこんなですがラノベコーナーにはございませんのでご注意あれ。

すわネクスト米澤か、と思わせるような作風…でもないんでしょうがそこら辺を多少は意識しての創元からのリリースかな、と。

非常にラノベっぽい雰囲気はそこらにありますが、ぶっ飛んだ設定やキャラ造形をしていないところが読みやすくて良いです。しかしながらこちとら生粋のオタクなので柳瀬さん萌えは譲れませんが。…いやこれは置いといて。

基本的にワトソン役の葉山君視点なのですが、彼の飄々としたキャラがいいですね。ここらへんが読みやすさの一因になっていると思います。

肝心のミステリ部分自体はそれほど大きなどんでん返しがある訳でもないのですけれど、結末には毒、とまでは言えませんがピリリと辛いものがあります。この辺米澤チックなのかも。

結末を見るに続編は作りにくそうですけれど、キャラはよく出来てて使い捨てにするのは非常に勿体無いと思うので、時系列でこの話の前にくる話とか書いて欲しいところです。

2007年10月13日 (土)

遠まわりする雛/米澤穂信

51qaancfnvl_ss500_ そうくるか、と。

古典部シリーズの短編集。正直このシリーズはそんなに好きではなかったのですが(キャラへの入り込み方がよく判らなかった)、今作でその感想が払拭されました。

個人的な印象なのですが、今作と僕の一番好きな「夏期限定~」は、真逆で同質のものを持った作品であると思います。オトコゴコロを良く書けている、と言いますかね、僕のような人間にとっては非常に共感できる部分が多いんですよ。シチュエーション的には勿論自分にこのような状況は無かった訳ですが。そういう意味で、今高校生くらいでこれを読める人は羨ましいなーとか思ったり。

ミステリ部分に関してですが、今回はかなり遊びでやってるのかな、と。パロディというかオマージュというか、既存のミステリを踏まえて作ってる感がありますね。そこら辺「インシテミル」との連続刊行というのは上手くやったなと思います。

いやー、今作で古典部シリーズ新作も心待ち状態になったんで、小市民シリーズと併せてリャンメン待ちですよ。高目はいまんとこまだ小市民の方ですけど。

2007年9月14日 (金)

ぼくのメジャースプーン/辻村深月

512pfs7kx6l_ss400_ 本書の殆どが「力」を持っている、「先生」と「ぼく」の対話によって構成されています。

殺すということ、憎しみ、復讐、愛、とは何か、またそれらに対して自分はどういうスタンスをとるべきか、そういう話が延々二人の間で交わされます。

それはそのまま読者に対しても発せられている問いであって、各々自分の答えを持って本書のラストに臨むことになります。

「限界小説書評」にも書いてあって非常に共感を覚えたのですが、最近「力」や「正義」について真摯に悩む主人公を滅多に見ないな、と。本作では、構造上そこを前面に押し出し、尚且つ読者にもそれを考えることを強いることになっているのですが、それでいて「ぼく」の結論が読者の心を動かすものである、というのは実はかなり巧みなのだと思います。

2007年9月 3日 (月)

インシテミル/米澤穂信

41wlceocnyl_ss500_ 何気に1年ぶりの単行本ですね。

前作がミステリの枠を大きく外れていたのに対し、今作はド直球のミステリです。

どんな風に直球かといいますと、まず館が出てきます。本を開いていきなり見取り図とかあるとドキドキしますよね。そしてそこに集まった人たちの間にあるミッシングリンク、有名ミステリへのオマージュとしての凶器の選択。

という風に、いわゆる「ミステリ」的なあらゆるガジェットが登場します。「ノックスの十戎」を丸々引用、なんてのもありました。

感心したのは、それらのガジェットが「ミステリ的」であることを逆手に取った構成をとっているところです。例を挙げれば、上記した凶器について有名ミステリで使われたものが使われて、それの引用元も明らかにされているのですが、何故か正しく引用されていないものがあったりします。それが解決のヒントになっていたりする訳です。

物語の設定的にはいくらでも続編を書けそうだとは思いますが、どうなんでしょうね、今作のキャラクターをそのまま引っ張って書こうとすると駄作になる気がしますね。でも、この作者なら、今作の存在を念頭に置いた上で読んでも、新規に読んでも面白く読める続編を書いてくれるんではないか、と期待しています。

でもまあ、秋期だよな、イチ早く読みたいのは。

2007年8月31日 (金)

世界の終わり、あるいは始まり/歌野昌午

51r6ntmb7gl_ss500_ 最近、友人と課題図書を決めて読むことにしまして、その一冊め。

前に読んだ「葉桜~」がそれなりに自分の中に衝撃を残すものだったので、同じ作者のものをもう一冊読んでみようと決まったのがこの本でした。

矢継ぎ早に繰り出される絶望的光景に、読み終わったあとリアルに具合悪くなりました。まさにジェットコースターノベル。

本書は、2つのパートに別れていて、自分の息子が連続誘拐殺人事件に関わっていると疑念を抱き調査する、所謂一般的なミステリ、サスペンスな構成の前半が事件パート、そこで得た情報を元に親父が様々な妄想をする後半が妄想パートとなっています。

んで後半が碌でもねえわけですよ。延々何の救いも無い妄想が綴られるんですから、しかも妄想なだけに後に行くに従ってだんだん無茶でサイコになっていってしまいます。息子が事件に関係しているのかどうか、もし関係していたらどうするべきか、という苦悩から、だんだん親父の心の闇が曝け出されていく様は圧巻です。ラストに提示される「希望」、その意味は僕にはひとつしか思い浮かびませんでした。それの何と恐ろしいことか…、2度と読む気はしないです。

これから読む方はぜひギャグとか萌えとか、出来るだけバカバカしい書物を傍らに口直しとして用意することをお薦めします。

2007年6月15日 (金)

カナスピカ/秋田禎信

51yt9fgd2bfl_ss500_ 一生ついていくわ。

「オーフェン」「エンジェルハウリング」などでお馴染みの秋田氏の新刊。今までいわゆるライトノベル界隈で活躍していた方なので、一般向け小説としての出来はどうだろうと恐々読み始めたのですが、これが素晴らしく読後感の爽やかな青春小説に仕上がっていまして、冒頭の言に至った次第です。

中学生の少女の初恋を通して人間的成長を描く、などとまとめてしまうとなんだかありきたりなものに聞こえてしまいそうですが、独特の秋田節が炸裂しまくりで全く陳腐さを感じさせません。

色々感想を書きたいといえば書きたいのですが、この物語はホントにお薦めで、ぜひ読んでもらいたいので、あえて内容に触れるものは書かないことにします。

代わりに、帯に書いてあった秋田氏の言葉を。

「物語の優れている点は、受け手が本当に欲している言葉を自分自身で見つけられることにあると思う。何度もそういう言葉に出会ってきた自分も、誰かに伝えたい」

確かに、受け取りました。

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